校長メッセージ

男女別学教育について

横浜共立学園は1871(明治4)年に創立され、今年で144年目を迎えます。創立以来キリスト教に基づく女子教育を実践しています。
 歴史的には多くの国で、学校教育の基本は男女別学から始まっています。日本では既に1872年の学制頒布の際に、男女の教育機会均等が述べられています。しかし機会均等は即、共学に結びつくものではありません。明治政府は「西欧文化に追いつき追い越せ」をスローガンに、富国強兵、殖産興業を目指し、実質的には男子中心に学校制度を整備してきました。
 その時代に、キリスト教宣教師の多くは、キリスト教に基づく女子教育を始めました。その価値体系は、歴史的にも、世界的にも広く認められるものであって、一部の国家や民族にしか通用しない価値観とは大きく異なるものです。
 敗戦後の教育制度が整えられる中で、GHQによる男女共学化の指導もあり、公立学校は共学化が進められましたが、私学の多くは別学を続けていました。その後日本社会でも、男女共同参画が謳われるようになり、社会の対等な構成員として、様々な分野で社会活動に参画することの重要性が認識され、1999年に「男女共同参画社会基本法」が制定されました。そしてその頃から私学でも男女共学が進められるようになりました。
 しかし、男女共同参画社会が重要であることと、男女共学が何故結びつくのかは疑問です。たしかに年少期から、男女ともに平等に、そして協力しあって生きることは大切ですが、年少期の発達過程では男女では異なる点も多くあることも事実です。学習効果の面からも、男女の特性がそれぞれ生かされることが必要ではないでしょうか。
 私はかつて男子校の教員として勤務していました。その高校は長い伝統を離れ、他校に先立ってかなり早い時期に男女共学に踏み切りました。その経験から言えることは、男子校であったときの男子と、男女共学になってから入学してくる男子とでは、かなり様相が異なっているということです。したがって別学が共学に移行する場合、根本的な教育論を教職員間で充分に議論する必要があります。それまでと同じ教育論は通用しませんので、どっちつかずの曖昧な教育を展開してしまうことになりかねません。また男子校が共学にするのは比較的容易ですが、女子校の共学化は慎重に行うべきではないかと思います。
 現在話題にされている男女共学・別学をめぐる議論の多くが、「男女平等」「教育の機会均等」といった側面で語られ、時には募集対策という経済的側面が優先され、教育の目的、内容、効果といった議論は埋没させられているのではないかと思います。「女性の輝く社会」と謳われていますが、単なるスローガンに過ぎないのではないかという懸念を拭えません。なぜならそれが一体どのような社会なのか全く不明瞭で、経済優先社会を構築するのに女性が必要であるとしか見えてきません。
 教育とは、文化の伝承と新しい知識を得ること、そして大切なことは、人間を育てる、人格を形成することです。そこで踏まえておかねばならないことは、男女差別と男女の区別はおのずと異なるということです。差別と区別を混同することによってかえって本質を見失い、混乱を生ずることが多くの場面で見られます。男女は同権であっても同質ではありません。男女を同質と考える画一的な教育は、男女固有の特質を潰してしまうことになりかねません。共学によりかえって、男女の棲み分け、差別感が強調される恐れがあるとさえ思えます。共学の良さは様々あります。しかし別学による教育効果は無視できないと思います。
 女子特有の感性などを数値で表すことは出来ませんが、女子校で多く見られる傾向はあります。女子校の清潔さ、古い校舎であっても清潔で綺麗な校舎は女子校の特徴ですが、教育にはとても大事なことです。また女子の特性は,コミュニケーション力にあります。高齢者のホームなどでも、女性同士の会話は普通にみられますが、男性は孤独なまま、ということが多いと言われています。
 学校行事などでも女子の場合は団結力が存分に発揮されます。個が抜きんでるのではなく、互いに助け合い協力し合って行事を運営します。しらけた冷めた雰囲気は少なく、共に協力し合う中で、互いの友情を深めます。学習への取り組み方にしても、女子はまず聞き取り、受け入れ、そして思考し、それから表現したり行動したりするのです。男子の思考、行動とは異なる傾向が見られます。またグローバルを求める現代、女子校の卒業生たちが語学力と環境順応力を生かしつつ、国際交流の最前線で活躍している現実があります。
 そして命を育むという、本質的な女性の特性により、平和への思いは男性よりも女性の方が強いと言えます。女性は戦いよりも和解の道を求めます。そのような様々な女性の特性が存分に育てられるのが女子校ではないかと思います。教育、すなわち人間を育てることは人間の生き様を示すことでもあります。女性教職員の多い女子校こそ、女性の生き方を学ぶ絶好の場ではないかと思います。
 日本はかつて新しい国家を作ろうと、男子高等教育機関の設立に力を注ぎました。それに対して多くのキリスト教学校は、女性と幼児の教育こそ、この国に必要であると訴え、その活動を続けてきました。これからの社会ではますます女性の役割が求められ、女子校の大切さが求められると信じています。

横浜共立学園中学校 高等学校
校長 坂田雅雄

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